斜視手術

こんばんは。

先週から甲状腺眼症の斜視手術を始めました。前職場では入院で行っていたのですが、僕のクリニックは当然ながら入院ができませんので日帰りで行います。手術自体は30ー40分、手術方法にもよりますが長くても50分程度です。

甲状腺眼症(バセドウ眼症)の斜視手術は特殊です。基本的には筋肉が炎症のあとの線維性の結合織で伸びなくなることで眼の動きが悪くなります。手術の際に筋肉を露出していきますが、筋肉の周りには硬い組織がはっていて筋肉と癒着しています。これが筋肉の動きを制限しているわけです。しかも眼の奥の深いところまで癒着は広がっています。
できれば癒着している組織を切除して筋肉の動きをフリーにしたいところですが、それにも限界があります。深いところに手を入れるほど出血などのリスクも増えます。

ある程度、癒着組織を切除したら、筋肉を後ろ(眼の奥側)にずらします。普通の斜視の手術であれば、手術前の計画でずらす量を決めて手術を行います。例えば、これだけの斜視があるので4mmずらしましょうと決めて手術をします。ところが甲状腺眼症の斜視手術では、このずらす量を決めるのがとても難しい、というか、術後に思ったようにならないことがあります。
手術中にどれだけ癒着組織を切除するかとか、いろんな要素が影響します。

そこでこの斜視手術には調節糸法という手技を使います。術後の状態に合わせて、筋肉のずらす量を後から調節するために、糸を使って筋肉をずらして、その糸を残しておきます。残した糸を縮めたり、緩めたりすることでずらす量が調節できるわけです。
また一箇所の筋肉の手術では眼が十分に動かなかった場合では、反対側の筋肉の手術をします。反対側の筋肉は後ろにずらすのとは逆に前へずらして筋肉を短くすることをします。これは調節糸法ではなく筋肉を予定した分だけ前へずらします。その際に最初の手術で残しておいた糸を使って動きがちょうど良くなる様にバランスをとるために使用したりします。
文章で説明するのはとても難しいですが。

長年手術をしていると自分の手術が固まってくるので、”だいたいこういう感じの時にはこれぐらい癒着を切除して、筋肉をこれぐらいずらすとちょうどいいな” みたいな感じになってきます。それでも調節が必要なことももちろんあります。ある意味保険をかけて手術をしている感じでしょうか。絶対に必要な保険です。

日帰りでしたが、手術が終わって、たいした休憩時間も取らずに患者さんがお帰りになったのを見て安心しました。翌日も”痛み止めを飲んだ後は大丈夫でした”とおしゃっていたので良かったです。
複視が良くなって日常生活に不自由がなくなると、患者さんの顔が明るくなります。